親知らずが神経と近いと言われた方へ
Close to Nerves下の親知らずは、下顎神経と近いことがよくあります。
親知らずと神経の位置が近いと、親知らずを抜いた後で『神経損傷による麻痺感』が後遺障害として発生することがどうしてもあります。
下の親知らずを抜きたくても、「神経や血管に近いので危険があります。」「神経麻痺が起こる可能性があるので様子を見ましょう。」と歯科医院で言われたことがありませんか?
当院ではそのような方に、『歯冠除去術』と『親知らず抜歯2回法』をご提案しています。
どれくらいの割合で神経損傷が発生するの?
唇やその下のオトガイ部に麻酔が効いたような痺れ感が出てしまう確率は0.4〜5.5%。
半年以上経過しても麻痺感が残ってしまう確率は全体の0.05%と報告されています。
0.05%=1/2000ですから、とても少ない割合とも言えます。
しかし、親知らずと神経がガッチリくっついてしまっているようなケースでは、当然もっと確率は上がります。
そのような場合においては、3%〜5%の割合で、長期間に渡って麻痺感が残ってしまうと言われています。
安全に抜ける『歯冠除去術』とは?
文字通り、親知らずの歯冠だけを除去します。
- 歯冠部分だけを抜く。
神経と近い歯根はそのまま置いてくる。 - 1年以上経過観察。
- 歯根が移動しないことを確認して治療終了。
どんなに上手な歯科医師が担当しても、神経損傷を100%防ぐことはできません。
神経と近い歯根部分には手をつけないことで、神経損傷のリスクを回避できます。
安全に抜ける『親知らず抜歯2回法』とは?
文字通り2回に分けて、親知らずの抜歯を行うことです。
- 歯冠部分だけを抜く。
神経と近い歯根はそのまま置いてくる。 - 1年以上待つ。
- 歯根が移動して神経と離れたら、歯根も抜く。
時間はかかりますが、親知らず抜歯を2回に分けてしまうことで、安全に抜くことができます。
『歯冠除去術』と『親知らず抜歯2回法』のメリットとデメリット
- 神経損傷(神経麻痺)が生じる可能性が非常に少ない。
- 骨を削る量が少ないので、痛みと腫れが少ない。
- 1回あたりの処置時間も少ない。
- 動脈損傷(大出血)のリスクも非常に少ない。
- 経過観察の期間が長い。
- 欧米では認知されている手法では、日本ではマイナーなテクニックである。
- 大学病院や総合病院ではあまり行われていない。
『歯冠除去術』と『親知らず抜歯2回法』が適応とならないケース
- 親知らずが縦に生えている場合
- 親知らずの歯冠部分も神経と近い場合
- 親知らずが非常に深い位置にあり、歯冠をカットできない場合
以上のような場合は、他の代替案をご提案します。
『歯冠除去術』と『親知らず抜歯2回法』の費用
1回目の抜歯『歯冠除去術』のみであれば保険診療の適応となります。
窓口3割負担の方で、約10,000円で施術可能です。
残した歯根が移動してきた場合は、2回目の抜歯『親知らず抜歯2回法』が必要となります。
2回目の抜歯は健康保険適応とならないため、自由診療扱いとなり、55,000円(税込)かかります。
- 『歯冠除去術』の治療例
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初診時レントゲン写真。
左下の親知らずの抜歯を希望されて来院されました。
他院さんで親知らずと神経が近いために、神経損傷のリスクを指摘されていました。黄色でトレースした箇所が下顎神経です。
親知らずと神経が寄り添っていることが分かります。3次元のCT写真による診断でも、ガッチリ親知らずと神経がくっついています。
紫色の部分が、下顎神経です。
このようなケースでは『歯冠除去術』が非常に有効となります。『歯冠除去術』終了後のCT写真。
神経と癒着している可能性のある歯根だけを残して、痛みの原因となる歯冠のみを抜歯しました。『歯冠除去術』から5年後のレントゲン写真。
このように全く歯根が全く前方に移動してこない場合は、あえて歯根を抜く必要はなく、治療終了となります。
- 『親知らず抜歯2回法』の治療例
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初診時のレントゲン写真。
左下に半分埋まっている親知らずがあります。初診時のCT写真。
親知らずが腫れて痛くなり当院を受診されました。
紫色の部分が、下顎神経です。まず『歯冠除去術』を行いました。
神経と癒着している可能性のある歯根のみを残しています。歯冠だけを抜いてから3年経過後のCT写真。
歯根が前方(右側)に移動し、神経と離れたことが分かります。治療終了後のレントゲン写真。
安全にかつ簡易的に『歯根』を抜歯して治療終了となります。